|
ヒトはいつだって失うことを恐れながら、 幸せが指の隙間から零れ落ちないようにと無意識に気をつけながら 今を生きる。 年を重ねるほど、色濃くなり 手に入れる快感を忘れられずにまた一つ手を汚していく その一方、大切なモノがあるヒトには 己を犠牲にしても護りたいと思う。 今日は王子の13歳の誕生日。 不吉な数字ではあるけれど、誕生日ってやっぱうれしい。 王である父上は、国を護るため、繁栄させるためにやることは山ほどある。 教育係のアルモントがいるし、休みの日には父上が遊んでくれたので 不足は無かった。 900世紀と続く家系だからか力が純粋に強すぎてあまり魔術は使わせてくれなかった。 一つ呪文を唱えたなら、どれだけ影響を及ぼすか計り知れない。 練習で瓦礫の山でふさがれた道を爆破して進まそうとしたら、 端が見えないくらい爆破してしまい、使うのを禁止された。 でも、コントロールを覚える練習させてくれないと、こっちも困るんだけどさ。 誕生際で、トラブルを起こしてしまうのも面目ないので、 大人しく父上の隣で腰をかけた。 「調子はどうだ?・・エリファス」 国王でもある父は優しく声をかける。 「コントロールが難しいです。今日も辺り一面を爆破してしまいました」 そう、稀に見る家系の血のせいらしく、 力が強すぎて目は血のごとく赤く、髪は銀色に 身体中に刻まれた900世紀分の回路が力を使うたびに禍々しく浮かび上がる。 「私も半世紀は研究してたのだけれど、答えに辿りつけないんだ」 そう、息子の魔力があまりに強すぎて魔法を使おうもんなら国が滅びかねない。 それを研究してくれているのだ。 「わかってます。緊急時以外は・・」 「私はそろそろ書斎に戻るから後は頼んだぞアルモント」 そう言って父上はその場を後にした。 「仰せのままに」 「エリファス、俺から絶対離れるな」 アルモントの顔に一瞬焦りが見えた。 「ここに居るのはみんな王族じゃないの?」 「皆変わり者だからな、他の血も混ざってるんだ。悪魔の血が・・」 悪魔、それは墜落した天使 罪を犯し地獄へと追放され、なんでも底意地が悪いとかなんとか。 吸血鬼使い、夢魔、すごい種族が混じってるらしい。 中でも、一番厄介なのがラゼータ一族。 レヴィー家と同じ900世紀も続く一族で、太陽を象徴とするレヴィー家とは表裏一体で その太陽が作り出す陰がラゼータ家だという、そしてこの901を迎える日に、 太陽とその影が交じり合い、災いが起きるのだと・・ 真偽は不明だが、家系図にそう記されてるのだからよほどのことがあったのだろう その頃王、アレイスターは書斎のドアに触れた瞬間、 息子に伝え忘れたことを思い出した。 「そろそろ言わないとな、何故お前の目が赤く、美しい銀色の髪か・・」 踵を返し、宴の広場へと向かう。 そう、エリファスで丁度901世紀、この13歳の誕生式に レヴィー家の全てを受け継ぐのだ。 そう、悪魔の果たし状のことも。 焦りからか、空間を移動してエリファスの元へと駆けつけた。 「父上?」 「アレイスター?」 かぶった。アルモントとエリファスが同時に言った。 2人はワケがわからず見つめあった。 「実は・・伝え忘れたのだが、ラゼータ家からの果たし状が来た」 「ラゼータ家!!? あのラゼータ家?」 アルモントはエリファスの肩を抱いた。 「・・・ラゼータ家?」 エリファスは首をかしげた。 「ラゼータ家って元は普通の人間だったんだが、数々の悪魔と契約を成し遂げ、900世紀と続く一族だから・」 レヴィー家と同じく900世紀と続く悪魔の家系。 悪魔は、人間の魂を喰らい世界の秩序を保とうとする。 その一方レヴィー家は、全てを司りあらゆる悪を裁く。 魔術師殺し、力をみだりに人間界で使用すること。その他たくさんの罪。 太陽と、闇との表裏一体。 果たしてそれは何を意味するのか、知る術もない ラゼータ家は、力を欲するあまりにさまざまな種族と血を分け合い 今では、混血のハイエナと呼ばれるようになった。 「だから、簡単に言うとトラブルメーカーなんだ」 アレイスターはエリファスから視線を逸らした。 「それで果たし状には・・なんて?」 「 −アナタノ 愛しい 息子を 殺す− だと」 それで、エリファスは自分が命を狙われてることを知った。 「何の恨みがあって・・そんな・・」 「さっきも言ったけど、力が欲しいがあまりレヴィー家の地位と権限が妬ましいらしくてな」 エリファスは言葉を失った。 13歳になるエリファスには、受け入れるには酷すぎる真実だった。 受け入れられるわけがない。 誕生日の日に自分は命を狙われてると知らされ、 だけど、己に立ち向かう力が無いということ。 「・・・どうしたら、オレ・」 「大丈夫だ!俺が護ってみせるさ・・・分家の奴らになんか負けない」 そう言うとアルモントはエリファスの肩を抱いた。 「とりあえず授与式にはまだ時間がかかるから、アルモント、エリファスから離れるな」 アレイスターは言うだけ言って、その場を後にした。 「俺は、式の準備を見てくる」 姿は消えても、声だけ届くとは流石魔王。 「大丈夫だ!お前だけは命に代えても護ってみせる」 その笑顔が眩しかったと同時に何かが胸をよぎった。 「アルモント死んだら嫌だ・・・」 そうだ・・自分だけ生きてるなんて、死んでるんだ 心が。 微笑みながら、頭を撫でて肩を抱いた。 「大丈夫だ・・」 「皆さん、おまちかねの時間がやってまいりました。 陛下に願いを・・」 歓声の中で、司会者は言った。 「・・アルモント、俺聞いてない」 「エリファスは、ちゃんと聞いてるだけで良いから」 変な輩は、俺が排除する。 そうアルモントはエリファスの耳元でささやいた。 すると、太ったオペラ歌手のような女性が目の前に立ち憚った。 「私からは、美しい歌声を〜」 彼女が、喉に触れると赤い光が喉を打った。 (・・っんぐっ!!) すると自らを回転しながら外の会場へと飛んで逝った。 次に、細身のおばあちゃんだった。 「陛下、私は願いをかける術を持ち合わせて降りませんが、 畑で取れた果物を・・取立てなので是非とも陛下へ」 「では、祭壇へ置いてください」 アルモントがそう促した。 そして、次々と願いをかけにやってきたが13人目 「私からは・・ぃっ・・・呪いの賛歌を!!」 会場が凍りついた瞬間だった。 呪いの賛歌・・・ 酔っ払ったこの魔女が、恨み、哀しみ、怒りを悪霊に託して 全てぶちまけたのである。 呪の言霊を発しながら這うように飛び、周りの人々にさまざまな呪をかけてしまうのだ。 −tausend von Randrose− 一瞬の出来事だった。 悪食たちが向かってくる前にアルモントは千の槍で 全てを追い払った。 「っっぃっっく! 流石はレヴィー家の狗め・・それなら」 「よせ! これ以上祭典を邪魔するようなら死を持って報いるが良い」 ドーーーーーーーン 強い音が会場に鳴り響いた。 アレイスターが、魔法で次元を超えて来た。 丁度彼らの前に。 「皆の者静粛に・・・強い魔力を感じたがこれ以上ぶち壊すようなら容赦はせんアビラ・・ それにアルモント、落ち着け」 アルモントは悔しさで唇を噛んだ。 「アンタ、昔からそうよね」 皮肉たっぷりにアビラは答えた。 「お前も相変わらず酒に溺れてるんだな」 バチっ・ Sie müssen zerstört werden 呪文と同時に地面が揺れた。 波打つように揺れ、波に飲まれたものは地中へ引き込まれ死んでしまう。 禁止された魔法である。 激しい音を立てて、地表が割れていく。 叫びと共に飲まれていく。 アルモントはエリファスの前に立ち、エリファスを護っていた。 その時だった。 後先を考えない魔女が世界を変えた瞬間だった。 Schloβ auf その魔女が呟いた瞬間、エリファスの後ろには魔法式が描かれた。 光がエリファスの全てを飲み込もうとする瞬間、 アレイスターは全身全霊をかけて飛び込んだ。 「エリファスーー!!」 その瞬間、エリファスの身代わりとなりアレイスターは字のごとく 魔法式の中へと呑み込まれてしまった。 一方エリファスは飛ばされた勢いで地面に倒れた。 「・・おとう・・さ・ま・・・・?」 涙が溢れてきた。 どうして、こんなことに・・?? 「エリファス! しっかりしろ!」 アルモントはエリファスを強く抱きしめた。 「あのヒトが簡単に死ぬはずは無い」 「あーーーーーっはっはっはっはっはは!!やったわ!あの男が私の手で」 祝いの宴をぶち壊した魔女は狂ったように笑った。 その嘲笑をエリファスは生涯忘れることはできないだろう。 この魔術はゾロアスター教主からラゼータ家へ伝えられた禁呪。 全ての負の力を解放し、全てを周囲にぶつける魔術。 負の力が負を呼び、倍増して周囲に放たれるので 一度当たると死に至る可能性もある。 ゾロアスター教主、生死も不明であるが出生も不明なのだ。 どのような経緯でラゼータ家へ伝えられたかも謎であるが、 ラゼータ家が最も謎が多い一族である。 「目的は果たしたわ、ではごきげんよう」 魔女は嘲笑いながら姿を消した。 |